金メダリストのQちゃんが話してくれたチャリティーのこと。心のバリアフリーのころ。そして愛犬ラッピーのこと。
投稿日:2016年04月05日

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ランニングはチャリティーのバトンリレー

障がいがある人とふれあう機会は、海外と比べて日本ではまだ少ないなと日々感じています。
特に子供たちは、その機会を得ることで、大きく変化します。
以前、車椅子ランナーのイベントに子供たちが参加した時、最初彼らは車椅子の選手とどう接していいのか戸惑っていました。
でも10分後には、車椅子ランナーが走るスピードを目の当たりに見たことで、そこに障がいがあるとかないとか関係なく、「すごい選手だ!」 「なんてかっこいいんだ!!」と選手への尊敬の念を素直に表していました。
つまり、とっても地道なことですが、そういう体験の瞬間を1人1人重ねていくことが、2020年の東京オリンピック・パラリンピックへのプラスになっていくと私は思います。

ランニングは、チャリティーとつながりやすい競技だと思います。
なぜかというと、マラソンランナーは、全然知らない人たちから路上で「無償の応援の声」をいただけます。
これは本当に嬉しく、ありがたいこと。だからこそ、嬉しさの受け渡しを今度はランナーからポジティブに発信し、還元していく形が増えれば、もっともっと素敵な社会になっていくと思います。
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マラソンランナーでもある盲導犬ユーザーの関東さんとアスリート話に大盛り上がり。

なぜ海外ではチャリティーが盛んなのか

海外では、日本以上にたくさんのチャリティーマラソンイベントが根付いています。
例えば2015年のロンドンマラソンでは、1回の開催で100億円以上の寄付金が集まったと発表されました。
それに比べると、日本はまだまだ遅れているところがありますが、それでも東日本の震災以降、少しずつ広まってきているかと思います。

日本には、温かいおもてなしの心という素晴らしい慣習があります。ただ、障がいがある人への接し方については、事例が少ないから行動に出せないのもしれませんね。困っている人にどうお手伝いをしていいのか、わからないというか。

だからこそ、2020年の東京オリンピック・パラリンピックに向けて、私たちには「心のバリアフリー」が必要だと思います。
ただそれには、障がいがある人と一緒に活動する機会が少ない。
それゆえ、盲導犬総合支援センターが主催している「チャリティー・スマイル・ラン」のようなイベントを今後、ずっと続けていく必要があると思います。

ロンドンパラリンピックが満員御礼になった理由として、パラリンピック開催の数年前から、ベッカム選手をはじめ多くの著名人が、障がいがある人を支援するチャリティ-イベントの情報を何度も発信し続けたことで、大きな結果につながったと言われています。
また世の中へ様々な事例を発信していくことで、もし自分が障がいをもった時に「こういうスポーツもできるんだ」「こういう生き方も可能なんだ」という選択肢を教えてあげることができると思います。

愛犬ラッピーは、人生の中で最高の贈り物

元々、犬は大好きだったのですが「食べて寝て走る」という生活をしていた現役時代、犬と暮らすことは不可能だと思っていたんです。
ただチームQを結成してから、走る以外にチームを統率していくという場面が出てきた時、人間関係に悩み自分を責めることがあり、眠れない日々が続きました。

そんな時、ある日たまたま入ったペットショップで、トイプードルの子犬を眺めたほんの数秒間、私は悩みを忘れることができたのです。
「かわいいな」という感情。それだけで、まさに今まで心を覆っていた雲が、さっと消えた瞬間でした。
「あ、私には、この子が必要なんだ!」と強く感じ、チームQのメンバーを説得しました。

もちろんメンバー全員に「今は犬を飼う時期ではない」と大反対されました。
そこでわずか1~2日で、犬との暮らし方の本を何冊も読破し、メンバーから反対される理由を全部箇条書きにして、それに対する解決方法を数枚のレポートにまとめました。
例えば、合宿の時に犬を預かってくれる人をすでに確保しているなど。そうやってメンバー全員を説得しました。
それだけ努力してでも、「自分が自分らしく」いるために、私にはラッピーが必要だったんです。

ラッピーが9歳になった今、この子は私の人生の中で1番最高の贈り物のような存在だと思っています。彼といると、どんな時でも心と身体がリセットできるんです。
ただ出張など外出も多いので、寂しい思いをさせているなという申し訳ない気持ちもあるのですが、その分休日はラッピーを中心にした生活を送っています。
盲導犬ユーザーの方もそうかもしれませんが、ラッピーとの暮らしで「私がしっかりしないといけないんだ!」という責任と自覚と自信が生まれてきますね。

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愛犬ラッピーくんと一緒に。

2020年に向けて私がやりたいこと

例えば、私自身バスに乗った時、ご年配の人に席を譲っていいのか、戸惑うことがあります。逆に失礼に当たらないかとか。

私は、東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会の委員として、障がいを持つ方一人一人の「こういうことをしてもらって、嬉しかった」という事例をたくさん集めていこうと考えています。
この事例という引き出しがたくさんあれば、どうお手伝いをしていいのか悩んだ時に、役に立つと思うんです。
手伝ってもらいたいことって、皆さんそれぞれ違うので、例えば具体的なお手伝いの仕方を集めて冊子にするとか。
「お手伝いしたいけど、どうしていいのかわからない」という人が、きっと多いんだと思います。

パラリンピアンを見ていると、障がいがある、なしということではなく、本当にスポーツ選手としてすごいな!と思うんです。
車椅子を使っていたりなど、使用する道具が違うだけで、パワーもスピードもあって、スポーツ競技として他のスポーツとなんの違いもありません。それはきっとみんなが一緒にスポーツをしたり、間近で見ることで感じることだと思うので、そのためには子どもたちをはじめ、多くの方に見て、感じて、体感してもらいたい。
心のバリアフリーを考えたときに、これってすごく地道なんですけど、でも確実に一歩づつ前に進んでいける形ではないかと。

エルサルバドルの選手から見た日本

去年、JICA(注:国際協力機構)のお仕事でエルサルバドルに行かせてもらった時に知り合った卓球選手が、東京で開催された世界卓球選手権に初出場するというので、応援しに行ったんです。
その時、彼女たちが言った言葉で印象に残ったのは、「東京ってすごいですね。東京は女性が一人でランニングしているし、子どもが一人でバスに乗っている。そんなことって、エルサルバドルではありえない。でもこんな国に自分たちもしたいな」って。

オリンピック・パラリンピックに参加する選手たちというのは、その国の希望を背負ってくる人が多いんですね。だからその言葉を聞いて、「あ~、世の中には、スポーツを身近に感じて楽しめる国や、スポーツを楽しめるだけの余裕がある国っていうのは、もしかしたら少ないのではないのかな」と。

エルサルバドルは、日本の何十倍の犯罪率と言われているので、治安の悪い地域では一人で外出することすら難しいんです。
でも国の夢や希望を背負った選手たちが、「自分の国もこういう安全な国になってほしい」と感じ、自国に帰ってそのことを発信していくと、それは大きなメッセージになると思うんです。

一人でも多くのランナーが増えることで発信できるメッセージ

オリンピック・パラリンピックは平和の祭典と言われています。
2020年の東京で、世界中の選手がやってきた時に、たくさんのランナーが街中を走っている姿をみることで、「自分たちもこういう国にしたいな」というメッセージを持ってもらう事ができれば嬉しいですね。
だからこそ、私はもっともっと多くのランナーを増やしたいって思いますし、さらにそこにブラインドランナーの方と一緒に走ることを楽しむ機会が増えれば、もっと大きなメッセージを東京から世界に発信できるのかと思います。

ブラインドランナーのためにも、伴走者が増えていってほしいです。一人の選手に対して、3~4人の伴走者の確保ができるような世の中になっていかない限り、ランナー本人がレベルアップするのも難しいと思います。
これだけマラソン人口が増えている世の中で、どれだけこのことをアピールして伴走者をひきこめるかが大切だと思います。

障がい者のアスリートがもっとレベルを上げたいと思っていても、そういう環境が整わない限り、実際にはレベルアップは難しいので、そのためにも今私たちは情報を発信していかないと、と思います。

インタビューを終えて~編集後記~

2005年東京国際女子マラソンで2年ぶりの優勝を果たした時、高橋尚子さんがインタビューで語った言葉、「陸上関係なく、今暗闇の中にいる人、悩んでいる人、どうか夢を持って一日を過ごしてほしいと思います」。
10年経った今でも、その言葉を鮮明に覚えています。
今回、超多忙の中、約90分にわたって「心のバリアフリー」について、熱い思いを語ってくれた高橋尚子さん。現役選手時代の頃と変わらず、彼女の言葉ひとつひとつにポジティブなパワーが満ち溢れ、聞く相手の心を動かすエネルギーがあることを改めて実感しました。
「カリスマ性」というのは、高橋さんのような方を言うのかもしれません。2020年の東京オリンピック・パラリンピックがどんな祭典になるのか、今から楽しみになってきました。
(取材:セツサチアキ)

Profile

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高橋尚子さん
岐阜県出身
中学から本格的に陸上競技を始め、県立岐阜商業高校、大阪学院大学を経て実業団へ。98年名古屋国際女子マラソンで初優勝、以来マラソン6連勝。2000年シドニー五輪金メダルを獲得し、同年国民栄誉賞受賞。2001年ベルリンでは女性として初めて2時間20分を切る世界記録(当時)を樹立する。08年10月現役引退を発表。
公益財団法人日本陸上競技連盟 理事、公益財団法人日本オリンピック委員会 理事、公益財団法人東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会アスリート委員会委員長。その他「高橋尚子のスマイル アフリカ プロジェクト」や環境活動、スポーツキャスター、JICAオフィシャルサポーターなどで活躍中。

そんな高橋尚子さんから、補助犬サポーターの皆さまへメッセージを頂きました!

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