障がいはひとつの個性。世の中には色んな人がいて当たり前。
投稿日:2016年05月02日

タイトル

あえて健聴児が通う保育園に入園させた理由

私自身、息子には耳が聞こえる、聞こえないに関わらず、世の中にはいろんな人がいるんだよと言う
ことを知ってほしくて、あえて聴覚に障がいがない子供と障がいがある子どもが一緒に通う保育園を
選びました。

また同じように、一般のスイミングスクールにも通わせるなど、習い事も積極的にさせました。
そうすることによって、息子自身が「あ、この人は、口でお話するんだ」と感じ、また耳が聞
こえる子どもも「この子は、手を使ってお話するんだ」と感じ、そこでお互いの存在を理解し
認め合う。こういう体験を息子にさせたいと思ったからです。

障がい児を抱える家族が、その事実を隠し続けた歴史も昔はありましたが、最近はようやく障
がいに対して、少しづつですがオープンになり、温かく受け入れてくれる社会になってきてい
ると思います。

堂々と胸を張って生きてもらいたい

障がいは個性であり、世の中にはいろんな人がいて当たり前だと思っています。
その反面、障がいについて全部を理解することは、とても難しいとも思っています。
でも相手の存在を認めることは、誰にでもきっとできるのではないでしょうか。

だからこそ私は、息子を色んな場所に連れ出し、胸を張って人前で手話をすることで、息子が
耳が聞こえないという障がいを恥ずかしがらず、堂々と社会に出て行く大人になってほしいと
強く願っています。
盲導犬テミスと触れ合う今井さん

障がい児と暮らすお母さんに伝えたいこと

障がい児と暮らすお母さんたちの中には、我が子が障がいを持って生まれたのは全て自分の責任だと
思い、自殺まで考えてしまうほど、問題を一人で抱え込む方も多いようです。だからこそ私は、
「あなたは一人じゃないよ。一人で悩まなくてもいいよ。」というメッセージを世の中に伝えたくて、
息子の障がいのことを公表しました。

知らないことが差別や偏見を生む

交流ってすごく大事です。小さい頃から、障がいがある子とない子が交流することで、偏見という
壁が出来にくいんだなって、私自身強く感じています。差別とか偏見は、「知らない」から生まれ
てくるものです。

「視覚障がい者」イコール「点字」と思いこんでいた私が、今日このインタビューに同席してくれ
た盲導犬ユーザーの穂刈さんと話して、点字よりもパソコンの音声ソフトを活用している人が多い
という事実を知ったわけじゃないですか。

こんな風に知ることによって、相手とのコミュニケーションが広がるんだと思います。
ユーザー穂刈さんと今井さん
SPEEDの大ファンである盲導犬ユーザー穂刈さんとのツーショット

字幕付き邦画が少ないことでわかる「情報保障」の問題

障がいを持った子どもたちが、将来の夢を持ち、それが現実的になるような環境作りをこれから取り
組んでいきたいと思っています。夢を持つことに制限をかけたくはないですね。

そのためには、「情報保障」の問題を解決しないといけないかと思います。例えば、聴覚障がい者に
とっていうと、字幕付きの邦画がまだまだ少ない。字幕付きがあっても、日程や本数が限られている
ので、自由に見ることができない。
また大学においては、聴覚障がい者が授業を受ける際、健聴者が隣に座って、授業の内容を聞き取り、
ノートにまとめるノートテイク(筆記通訳)という方法が主流となっています。

しかし実際は、言葉のスピードに追いつけず、授業内容の30%くらいしか筆記できないため、結果的
に学習の遅れが出てしまうようです。こういった情報保障の格差に、私は不公平を感じてしまいます。
もし大学の授業にも手話通訳士が派遣されるようになったら、学びたくても学べないという状況を解
消できる糸口につながるのではないでしょうか。

また命に関わる問題として、東日本大震災の時にも情報保障がなかったため、逃げ遅れて亡くなった
聴覚障がいの方がいました。避難所生活においても、聴覚障がいは見た目だけではわかりにくいゆえ、
なかなか障がいについて理解してもらえず、精神的ストレスを負った事実もありました。
そういういった意味でも「情報保障」のケアがもっとあってほしいと願っています。

でも携帯が普及したことで、聴覚障がい者が得る情報量が格段とアップしましたね。昔は遠くにいる
人との連絡はファックスだけで、ファックスが登場する前は、手紙だけ。
その時代と比べるとものすごく便利になっています。私自身、息子とスマホのテレビ電話機能を使って、
手話で会話しています。相手の顔が見えることで、すごく安心してお仕事ができるんです。
だからこそもっともっと、この先、障がいがある人とない人が得る情報量の差がなくなる世の中になっ
ていくことを期待しています。

障がいについての「勉強」よりも障がい者との「交流」

ドイツでは聴覚障がい児と健聴児を一緒に受けいれる学校もあると聞いたことがあります。
子どもはとても柔軟なので、幼少時代にこのような体験があると、大人になってから障がいがある人
に対してのコミュニケーション方法が自然と身につくんですよね。

日本においては、ろう学校と普通小学校が分けられています。また普通小学校の授業の中で行われて
いる障がいについての教育も、まだまだ浅い内容でしかない気がします。
本当に必要なことは、障がいに対する「勉強」ではなく「交流」、つまり一緒に学ぶ時間が子どもた
ちには必要だと思います。このような体験をした子どもが大人になった時に、「心のバリアフリー」
が生まれるのではないでしょうか。

私はとにかく息子には色んな世界を知ってもらいたいことと、手話は世界共通ではないののでその
国々の手話があることも体験してほしいという意味で、フィリピンやタイのろう学校へ一緒に行き
ました。設備や環境面などハード面においては、日本の方がものすごく充実しています。
でもソフト面で言うと、障がいの有無に関わらず、筆談などを交えて一緒に遊ぶ現地の子どもたち
の姿を通して、フィリピンやタイの方が障がいに対してオープンであり、心に豊かさやゆとりが
あるなと感じましたね。

保育園に通っていた頃の愛息・礼夢(らいむ)君

音楽は耳が聞こえる人たちだけのモノじゃない

子どもたちの夢を制限したくないという気持ちと同様に、耳が聞こえないから音楽を聞かせないとい
うのは、ちょっと違うのではないかなっていう考えから、私が出来るボランティアとして聴覚障がい
の子どもたちに音楽やダンスを教えたりしています。実際に子どもたちにギターを触ってもらったり、
どんな音がするのかなって想像してもらったりすることで、そこから生まれる空気感を体験してもら
えたらなって思いながら。

以前アメリカへ行った時、多くの方が「障がいは個性だ」という価値観を持っていることに感動しま
した。彼らは、障がいがある人に対して「あなたはどういう障がいがあるの?」と普通に聞くんですね。
それは、その人の障がいを正しく知ることで、それにあったコミュニケーション方法を考えるための
質問なんです。
またアメリカには、聴覚障がいのダンサーもたくさんいました。そして障がいを持った一人のダンサー
の方に「音楽は耳が聞こえる人たちだけのモノじゃないよ」と言われた時、「あ~、私がやってきた
活動は間違いじゃなかったんだ」と思い、嬉しかったですね。

今日、盲導犬ユーザーの穂刈さんにお会いした時に、「どこまで見えるのですか?」と私が最初に
聞いたのは、まずはきちんと穂刈さんの障がいを理解したかったんです。

障がいの程度によってコミュニケーション方法は変わってくるし、何よりも一人の人間として接したい。
いつもそう思っています。

愛犬くるくる君のこと

息子が「弟がほしい!」とずっと言っていたので、じゃあワンちゃんと暮らせば命の大切さも知って
もらえるのではないかと思った事と、聴導犬の存在についてママ友から聞いていたので、
「そうだ!聴導犬のように手話を読み取れる犬にしよう(笑)」とも思い、トイプードルの男の子を
家族として迎えました。

名前は「くるくる」。息子が付けたんです(笑)。くるくるは、「お座り」と「ふせ」を手話で読み取れます。
家の中の会話は全て手話なので、くるくる自身もなんとなく手話をわかっているようです。
くるくるを怒る時も手話で「いけない!」って怒ります。
11歳になったらいむ君とくるくる
11歳になった礼夢君とくるくる

犬との暮らしで心がひとまわり成長した息子

くるくるが来たことで、息子自身思いやりの気持ちがすごく増えましたね。
またくるくるの話題を通して、家族間の会話がまた一段と増えたと思います。

実はもう一匹、ブビちゃんという女の子のトイプードルもいたのですが、数年前に病気で亡くなり
ました。その時、息子は生まれて初めて「死」を体験し、泣いたんです。
とても悲しいことなんですが、ブビちゃんという命を通して、息子の心の成長につながったんじゃ
ないかなって思います。

犬は本当に家族そのものですよね。くるくるはとても穏やかで、マイペースタイプ。私と息子が
プロレスごっごをすると、正義感が強いのか、「やめて、やめて」って一生懸命仲裁に入ろうと
するんですよ(笑)。

私のママ友で聴導犬と暮らしている方もいます。ろう学校にも連れていってるし、聴導犬と手話で
きちんとコミュニケーションをとっています。家の中では来訪者のチャイム音や携帯、ファックス音、
外出先では自動車のクラクションを教えてくれます。聴導犬は、聴覚障がい者にとって本当に大きい
存在だなって思います。

インタビューを終えて~編集後記

「華がある人」。
まさにこの言葉通り、今井絵理子さんが取材場所に入ってきた瞬間、その場の雰囲気がぱっと明るく
華やかに変化しました。
その反面、「ほら、私、髪がこんなに短くなったんですよ。ちょっと触ってみて。」と、
盲導犬ユーザーの穂刈さんの手をとって自分の髪の毛をくしゃくしゃっと触らせるという面もある
非常に気さくで壁のない方でした。

見えない人にも聞こえない人にも、その人がわかるような方法できちんと情報を伝えようとする思いが、
自然と身についている今井絵理子さん。
障がいの有無の前に、一人の人間として接することが大切だという彼女の言葉が非常に印象的でした。
(取材:セツサチアキ)

Profile

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今井絵理子さん
1983年9月22日沖縄県に生まれる。1996年SPEEDのメンバーとしてデビュー。
2000年SPEED解散後、ソロ歌手活動開始。
04年 長男を出産。08年息子の聴覚障がいを公表。
「障がいは個性、不便だけど不幸ではない」と手話で伝えた。
NHK「みんなの手話」の司会を歴任し、現在は講演・執筆などを行いながら
ライフワークとして全国の子どもたちと親御さんたちに笑顔を届ける活動をしている。

そんな今井絵理子さんから、補助犬サポーターの皆さまへメッセージを頂きました!

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